プロローグ

熊本県熊本市。日本、九州地方のほぼ中心に位置し、有名な『阿蘇山』など自然や水が豊富。少し辺りを見渡すと、『熊本城』が見えるような街中“下通”の銀行ATMの前で一人の男が記帳の終わった預金通帳を開いていた。

「うわ、先月より少ない。」

そう言いため息を付いた彼の名は渡辺重蔵わたなべじゅうぞう。現在二十歳フリーター。メガネをはめ、男としては長めの髪を右側だけ長く伸ばすのは彼の拘りだ。

重蔵はアルバイトを掛け持ちし、朝から晩まで長い時間働いてはいるがフリーターである彼の収入は少なく、毎日厳しい生活を送っていた。

就職活動はしていない訳ではなく、世間は不況でなかなか職に就けないでいた。以前は普通に会社務めしていたが、いわゆるブラック企業と言う奴で上司から受けるパワハラや、過度なストレスと度重なるサービス残業が原因で体調を崩し、嫌気がさして辞めてしまっていた。

「選ばなければ職はあると言われたけど・・・・・。」

下通を歩きながら、ハローワークの職員に言われた言葉を思い出す。しかし本当に選らばず職についたところで前のような過酷な労働環境だった場合、仕事を続けていく自信が無い。

将来の不安を考えながら歩いていると、ズボンのポケットで振動する携帯に気が付いた。多くの人がスマートフォンを使うこのご時世、まだ愛用しているガラパコス携帯を取り出して画面を見ると、そこには“本藤和雅ほんどうかずまさ”と書かれた人物からのメール通知が来ていた。内容は『今日、これから映画行こうぜ!』だった。

メールの送り主、本藤和雅とは中学からの幼馴染で、いつも超能力だの、宇宙だのよくわからない話をしてくる少し変わった友達ではあった。

彼が言うには地球の人間はどんな人でも『超能力』を持っているらしい。透視、瞬間移動、念動力や予知と言ったすぐに想像できるような力や、その他に様々なものがある。

そんな超能力の才能を持ったものを集め束ねる組織が何百年も前からあると言う。

重蔵はいつもその組織絡みで変なことに巻き込まれては記憶を消されたりしているらしく、超能力の存在を確定するような事や現象には実際に遭遇していない。

普通の人はそんな話、まず信じないだろう。だが個人的には不思議とまったく信じられないと言う訳でもなく、話しを聞く事自体は不快ではない。むしろ楽しみにしている。自分が主人公の物語を聞いているような気分になるからだ。

「映画か今日はバイトも休みだし、たまにはいいか。」

そう言うと重蔵はメールに返信をする為、文字を打ち始める。

ある男は一人、広大な砂漠の中に居た。周りは見渡す限りの岩石や砂ばかりの荒れはてた広野で、彼の頭上には太陽が何個も輝いている。

そうここは地球ではない。この星には大気はあるが、恒星の影響で内部の温度は地球上の生物では生きていけないような灼熱だが、そんな環境でも平然と生きているこの男の名は本藤和雅ほんどうかずまさ。黒い短髪に黒いスーツをボタンも閉めず白いシャツの胸元を開け、ネクタイもせずに着崩している。

「あっつー、マジ熱いもう無理。」

空に輝く恒星を見上げて和雅はそう言うと、耳につけている無線機から甲高い女の声が聞こえた。

『隊長、文句ばっかり言わないでください。』

「つってもよー水鳥みどり?ここ半端なく熱いんだぜ?わかってる?恒星がここにいるだけで三つも見えるの。」

『能力で守っているのだから熱くないでしょ?』

「守っていても熱いんだって。」

『気持ちの問題でしょ!そもそも、その星にまともに居たら生きては居られないのよ?しっかりして下さい!』

「はーい。」

『ほら、今回の依頼は蛇退治でしょ?早く終わらせてきてください。』

その無線の声が終わると同時に一面砂漠の土の中から突如、砂埃が舞い上がる。

和雅は咄嗟に手で顔を覆う素振りをしたが、周りにある見えない何かに当たり砂埃は彼を避けていく。

視界が晴れると、目の前に大きな蛇が姿を現した。見上げ続けると首が痛くなりそうな大きさの蛇を見て、和雅は苦い顔をするとこう呟く。

「うわぁでっか。気持ちわるぅ。」

眼前の敵に対して大蛇は威嚇行動を取ったが、和雅は構わずゆっくりと大きな蛇に向って歩き出し、次の瞬間には消えるように居なくなっていた。

急に居なくなった敵を焦ったように探そうとした大蛇だが、気が付いた時にはもう首が落ち、自分の体を眺めていた。

「お仕事終了。」

和雅はそう言いながら大蛇とはかなり離れた場所に姿を現した。

彼の手にはいつ取り出したのか分からない銀色の西洋風の剣が握られ、肩にかけるように持っていた。塚の部分は剣先にむけて角張ったデザインで中心には、緑色の石が輝いている。その剣を和雅が手放すと今までそこに本当にそれがあったのか不思議に思えるくらい消えてなくなった。

彼は仕留めた蛇の身体が完全に倒れるのを確認した後、スーツのポケットからピロリン!と何かの通知音が鳴るのに気が付いた。

「おっ!流石俺が改造を施したスマホ、かなり離れたこの星に居ても電波を拾えるとはねぇ。」

スマートフォン取り出し、画面を確認するとメールが入っていた。渡辺重蔵と名が表示されており、タップして内容を見ると『いいよ、いま下通に居るけど来れる?』と送ったメールの返事が届いていた。

返信を打ってもう一度携帯をポケットにしまうと彼は背伸びをしてからこう言った。

「今日はこれで終わりだし直接“地球”に行くか。」

渡辺重蔵は本藤和雅と映画を見るという約束のため、彼が来るまで近くのファーストフード店で暇をつぶしていた。一個100円のハンバーカーとドリンクを頼み、外の景色が眺められる窓際の席で頬杖をつき、ドリンクを片手にボーっと下の通りを眺めていた。

人通りが多く、流れていく人の姿を見るのは意外といい暇つぶしになる。しばらく眺めているとテーブルに置いていた携帯が、音と振動でメールが入っているのを知らせてきた。

折りたたみ式の携帯を開くとメールの送り主は和雅だった。内容には『外にいるぞ!』と書いてあり、それを受けてさっきまで眺めていた通りをよく見ると、見慣れた幼馴染本藤和雅がこっちに向って手を振っているのが分かる。

重蔵は手を振り返して、持っている飲み物を一気に飲み干すと和雅のもとに向う。

「おす、渡辺。」

会って早々和雅からの挨拶だ。重蔵は彼の服装を見てから、疑問を浮かべると挨拶を返す。

「おす、てか本藤?お前何でスーツなんだよ?」

「いや、ちょっとさっきまで仕事だったんだよ。」

「仕事って“あっちの世界”の仕事か?」

「そうそう、とりあえず映画館行きますか。」

「何が見たいって言ってたっけ?」

「ほら、だいぶ前に見た『グリーンマン』の続編だよ!」

「あぁ、あれか。」

「そう言えば渡辺、最近仕事の調子はどうだ?」

「相変わらずまだフリーターやってますよ。」

「仕事見つからないのか?」

「面接とかはちょくちょく受けに行ってるんだけど、なかなか受からなくてな。」

二人はそうやって他愛の無い話をしながら映画館に向った。最近の彼らは忙しく電話ではよく会話はしていたものの、実際にこうして会うのは久しぶりだった。

そうしてお互いの近況報告をしながら目的の映画館に付いてからは、お決まりのポップコーンと飲み物を買い。約1時間半の映画を楽しんだ。

映画館を出た後は、見た映画の話で盛り上がりながら近くのカフェに入る。和雅と重蔵はそれぞれブラックコーヒーとデザートを注文して受け取ったあと席に着き、落ち着いてから重蔵がこう切り出した。

「本藤そう言えば“この前の話の続き”はどうなったんだ?」

「あぁ俺が行く任務のことか?丁度今日行ってきたよ。」

「おー、どうだった?」

「いやぁ、思った通り気クソデカかったよあの蛇。あれはマジでキモい。うちの隊の水鳥なんか・・・・・・」

そう彼はいつもこんな話を自然にする。不思議な宇宙の話。彼が仕事をし、生きているという世界。重蔵にとっては面白い物語。そして、もしかしたらそんな世界が本当にあるのでは無いかとう希望。過去に重蔵はこんな事を和雅に言った事があった。『その世界に関わりたい』と、しかしこれは拒否された。

理由はこうらしい。重蔵が本当に心からこの世界の話を信じていなければ、この世界に関わる事は出来ない。確かに重蔵は、和雅の話を心からは信じていない。半信半疑だ。でも、もし和雅の話が本当で心から信頼し、自分が彼の話す不思議な世界に関れたのなら、それはきっと楽しい人生になるのではないだろうか?

おそらくこのままのではたぶん、ろくな人生を送らない。なら本気で信じて見てもいいのではないだろうか?あぁたぶん今の自分は、決まらない職とアルバイトで忙しい毎日に疲れて魔が差してしまっているんだろう。

(でも、それでも信じたい。和雅ことを本気で一度、心から。)

そんな決心が、重蔵の気持ちが心で大きく変わったとき、彼の口から言葉がこぼれる。

「なぁ、本藤!」

「何だよ、急に。」

「おれ、今の自分をどうしても変えたいんだ。無理を言っているのは分かってる。だけどあえて言う。俺はお前が話すその世界に関りたい!!」

「・・・・・・・・・・そうだな、でも残念だがお前にその権利がないんだ。前に言ったが、それはとても難しい事で・・・・・・・お前はおれ・・・・・を・・・・。」

和雅が言葉の途中、妙に驚いた顔をした直後。重蔵の飲んでいたコーヒーカップが横に倒れ、中身がこぼれてしまった。

「あ!悪い!ひじででも当てたかな!」

慌てた重蔵はそう言ったが、ひじを当てた?そんな感覚は無かった。なんだか独りでに動いたような?と不思議に思いながら咄嗟に席においてある紙ナプキンでテーブルを拭いていると、零しているのを見かねた店員がすぐさま駆け寄ってきた。

「お客様!大丈夫ですか?」

「はい、すいません。」

「よろしければ、こちらの布巾をお使いください!」

「あ、ありがとうこざいます。」

貰った布巾でコーヒーを零したテーブルと床を拭きながら少し恥ずかしそうに重蔵は、和雅に向かって言う。

「悪いな本藤、零しちゃって。」

「・・・・・・・・・・・」

何故か無言の和雅に違和感を覚え、重蔵は彼の顔を見上げる。

(あれ・・・・・・・・・。)

重蔵が見上げてすぐにそっぽを向いてしまった和雅だったが、気のせいか少し泣いているような、それでなくても今にも泣き出しそうなそんな顔に見えた。

何故彼がそんな表情になったのかは重蔵には理解できなかったが、自分が原因かと思い焦り、和雅に声を掛ける。

「・・・・・・ほ、本藤??」

「渡辺、お前は本当にこの世界に関りたいのか?」

「うっ・・・うん。」

変わらずそっぽを向いたままの状態で話す和雅に、重蔵は返答する。すると二人の間に短く沈黙が起こり、途端に和雅がニヤッと笑みを浮かべるのが見えた。

そのままニヤケ顔で和雅は重蔵の顔を見つめると、言葉を発した。

「いいだろう。待っていたよ渡辺。この時を。」

「え?」

「お前をこの世界に関わらせるための必要なカードはすべて揃った。よし、野暮用が出来たから俺は先に帰る。渡辺。俺が迎えに来るまで“あおいちゃん”には気をつけろよ。」

「あ!ちょ!!!!」

和雅はそう言うとすぐにカフェを飛び出してしまった。重蔵は思う。

(まさかこんなことになるとは・・・・・・。)

こんなパターンは初めてだ。いままで和雅の話す世界に関れるような前向きな事は一度も言われた事がなかった。でも彼は確かにこう言った『世界に関わらせるための必要なカードはすべて揃った。』と、重蔵の中で何かがゾクッと高鳴るのが分かった。そして気付く、和雅が後払いの代金を払ってないことに。

「って!ここ俺持ちかよ!」

そう言うと重蔵は、渋々会計を済ませるのだった。

次章 第1章 はじまり

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