小学生編 第27話 失い得たこと

本藤和雅が妹を失ってから、数ヶ月の時間がたった。

あれから狂うように研究に没頭した彼は、新たな能力武装『空』を開発した。

その機器は、所持する人間の持つ潜在能力を引き出して、能力武装に超能力を宿らせる事ができると言うもので、これがある事で超能力に恵まれなかった人に能力を与えることが出来るのはもちろんのこと、既に超能力を行使できる者にまで第2の超能力を手にする機会を与える事も可能になったのだ。

和雅が開発した能力武装は、より多くの人が超能力を使用できるようになったその革新さから全宇宙に評価され、大きな表彰を貰うまでに至った。しかし、それを素直に喜べない少年がいた。

それは大心龍介、いつも優しそうな見た目の彼だか、今日はあるものを手にしながら険しい表情を浮かべている。

そのあるものとは、本藤和雅から貰い受けた能力武装『空』だ。

定期的に坂井準と3人で行う訓練にて、これを渡されたのだが喜べない。

理由は簡単、だだの嫉妬だ。

宇宙で表彰されるような武器を作ってしまった事もそうだが、その時行った訓練でも明らかに実力差を付けられてしまっていることを、身に染みて感じたからだ。

負の感情が高まった龍介は、つい手に持っている透明な玉の形をした能力武装『空』を地面に叩きつけようとしたのだが、すんでのところで思い止まった。

「友達が・・・いや、親友が作ったものを壊そうとするなんて・・・。」

自分はなんて最低な人間なんだと、少年は激しく心落ち込んだ。

妹を失ってから、和雅の様子がおかしくなり、ショックから研究に没頭したのは知っている。もしかしたらこれは、彼のそんな苦悩に抗おうとする気持ちから生まれたものなのかもしれない。

龍介は目を瞑り、心を落ち着けると能力武装をジーパンのポケットにしまった。

そんな頃、死んだような目の少年、本藤和雅は情報局本部『月』にある巨大な図書館に来ていた。

ここの図書館は支部ある施設よりも大規模で、宇宙中の本が全て集められているとも言われており、全ての棚をただ歩いて回ることも、一日では出来ないほどだ。

そんな本部図書館の一角で、和雅少年は手に取った本をテーブルに置き、椅子に座ってからは、読まずにただ呆けて座っていた。

その表情からは、気力のない様が読み取れる。

(大きな図書館だ。少し前なら感動していたのに、なんでだろう。まったく感動しない。)

家族を一人失ったあの日から、和雅はまるで心が氷になったような、そんな気分だった。

気晴らしの為に没頭した研究が全宇宙から評価されても、大きな図書館を目の前にしても、大切な友と語り合っていたとしても、彼はまったく心が動かなくなってしまっていた。

「ただ何かを論理的に思考し続けるだけの機械のような気分だ。まぁもうそれも悪くないかもな。そしたら何も怖くない・・・。」

「本当にそうかしら?」

少年の何気ない呟きの後に横から突然聞こえる声、本藤和雅は特に動揺することもなくゆっくりと隣を見た。

そこには凄く髪の長い、同じ歳くらいの少女が椅子の前で立っていた。

薄く茶色の髪が足のくるぶし程まで伸びていて、灰色と白を基調とした着物を身に纏っていた。少女はこう続ける。

「お隣よろしい?」

「え・・・あっ、うん。」

「貴方の言ったこと、私はそうは思わないのだけど、どうしてそう思ったの?」

「どうしてって、僕は科学を勉強しているんです。それを極めるなら、できる限り人間であることをやめて論理的に考える機械になれば、もっと極められると思うからだよ。」

和雅はそれを言いながら思う。自分はなんでこんな事を見ず知らずの女の子に話しているのだろう?

そもそもこの子は誰なのか、それも分からないような状態であったにも関らず、少年はそれさえもどうでもいいような気分に襲われた。

隣に座った着物の少女は、和雅の意見を聞いてほんの少し何かを考えた様子で間を置くと、こう言葉を返す。

「では貴方は何のために科学を勉強しているの?」

「・・・・何のために?」

「そう。ただ学問が好きで、それだけをやっていたいの?そうには見えないわね。だって貴方、辛そうな表情をして、ぜんぜん本に手を付けていないもの。」

「・・・・・・・・。」

「どんな人でも、まず自分が動物であり、愛のある存在であることを忘れてはいけないわ。それを無くしてしまったら、本来見えるものも見えなくなってしまう。狭い視野、それがあるのにどうして学問を極められるのかしら?」

「・・・・そうですね。その通りだと思います。まぁどうでもいいですよ。一人にしてください。」

和雅はそんな風に雑に言葉を返すと、彼女から目を背けた。理屈はごもっともだ。だが、それは今の少年には響かなかった。

(面倒くさい奴だ。早くどっかに行ってくれないかな。)

そう卑屈に思った瞬間、和雅は後ろから急に抱きしめられた。流石にこれには少年も驚き、目を見開いた。

「駄目よ。そうな風に言っちゃ。」

優しく温かい声が和雅の耳元で囁く。

「辛いことでもあったの?」

「なっ、なんでそんなこと君になんか」

「いいじゃない、言ってみなさい。辛いことがあったの?」

「・・・・・・うん。」

「そう。辛かったわね?貴方は立派だわ、だから胸を張って生きなさい。」

「・・・・でも、俺は大切な人を守れなかった。ずっとそれを目標にしてきたのに、守れなかったんだ。」

和雅は涙ぐみながら、そう言った。

「貴方は優しい子ね?その優しさは、貴方の長所だわ。でもね、人生って辛いことばかりなの、それを乗り越えてみんな大人になっていくのよ。」

「辛いことはもう嫌だ。大人になんてなりたくない。」

「そうね。わかるわ。でも子供のままの方がもっと辛いのよ?」

「・・・・・・・。」

「誰かの為に必死に生きなさい。悪と世間に惑わされず、思うようにならなくても落ち込まない強い心と、方法を身につけなさい。そうしたらきっと幸せになれるわ。」

そう言うと着物の少女は、和雅の頰に優しく口づけをした。

少年の顔に少しばかりの光が戻る。

「君はだれなの?」

「私は花野つぼみ。貴方のお名前は?」

「本藤和雅。」

「和雅くんか、よろしくね。」

「・・・・よろしく。」

「うん!いい顔になってきたわね。」

そう言うとつぼみと名乗った少女は静かに立ち上がり、軽く手を降って、その場を去っていった。

唐突に現れ、唐突に去って行った彼女の姿に、和雅は呆気に取られていたが、ふと彼女に口付けされた事を思い出し、左側の頰に手を当てる。

(不思議な子だったな。)

そんな風に思いながら、少年は頰を赤く染める。

次話

情報局本部『月』局務長室。 この部屋の扉の前で、髪の長い着物の少女、花野つぼみが懐かしむように少しの間眺めていた。急に動きを止めた少女...
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