小学生編 第24話 うまく行かない現実

本藤和雅が念願の能力武装『時間』を完成させてから、数日がたった。

この日は、大心龍介、坂井準、和雅、3人の少年達が集まって定期的に行っている訓練で、今回は局務長大心真と副局務長石川俊道が視察に来ていた。

嫌がってはいるが、訓練の時には安全のためしっかりと黒い全身タイツの戦闘スーツを身に纏い、その上に黒のジャケットを着ている。

この上着も強力な防御性能を持ち、それだけではなく海でも宇宙でも、人間が本来生命活動ができないような環境でも、生き延びる事の出来るような機能まで搭載している。

普段少年達が自主的に行なっている訓練に、突如来た情報局ツートップ。その場には謎の緊張感が生まれ、なんだか学校のテスト試験前のような感覚にも襲われた。

そんな3人の緊張感を察したのか、七三分けの青年、俊道が笑顔で声をかける。

「3人とも、今回はただの見物だから、気楽にいつも通りやってよ。」

有難い言葉だ。有難い言葉なのだか、少年達からすれば、素直にそうも思えない。

それは局務長大心真からの強い圧力を感じるからだ。

何かを試すような表情。その顔からは、全力でやらないと殺すぞ?甘ったれた訓練をやっていないだろうな?と言ったような心持ちが読み取れる。

和雅、準、龍介はまだ何もしていないのに大量の汗を流し、気絶するまで続いた、見習い時代のあの過酷な訓練トラウマが、彼らの脳裏によぎる。

「とっ、とりあえず今日は、昨日言っていた通り、能力使用可のサバイバル方式でやってみよう。」

龍介がそう言って、場を乗り切ろうとしたのを感じ、和雅と準は頷いたのだが、そこへ大心真の言葉が突き刺さる。

「いつも能力を使っていないのか?」

「え・・・あ、はい。」

「・・・・ほう。」

まるで何故いつも能力を使わない?的な意図を感じる言葉に危機感を覚える少年たち3人。苦言を呈されてしまう前に、そそくさと位置に着き、坊主頭の坂井準が声を発する。

「いっ、いやー。最近は能力ありでやる時、龍介くんに超能力使わせられるようになってきたから、僕たちもだいぶ上達してきたよね?かず?」

普段、ちゃんと超能力ありでもやっていますよ、と言うアピールも含んだ準の言葉に、和雅は内心(ナイス!)と思いながら返答をする。

「そうだな!」

「二人とも初めの頃とは、比べものにならないくらい上達しているよ。最近は油断できない。」

「そうだ龍介、準。今回はこれもありでやってもいいか?」

そう言って和雅少年がポケットの中から出したのは、懐中時計だった。その機器に、龍介と準以外に見物している大人達も興味を示す。

「かず、これは?」

「準ちゃんには前に言った事あると思うのだけど、俺が作りたかった能力の補助をしてくれる機器、正式名称を能力武装『時間』と命名してる。」

「あっ!もしかして、タイムマシンみたいなもの?」

「その通り!まぁ、出来はまだまだなんだけど、今回はこの機器の性能テストも兼ねて力を使って見たいんだ。」

和雅の言い分に、龍介と準は少し頭を悩ませる。

それは単純な能力での殴り合いとしては、訓練の趣旨が変わってくるのではないだろうかと思うところもあるからだ。

これは訓練であるため機器を持つ事、すなわちある種武器を持つ事をどこまで認めるか、坂井準の超能力『武装型』も言ってしまえば、武器を持っている状態に近いのだが、と悩む少年たちの意図を察したのか、オールバックの顎鬚男。大心真が口を挟む。

「問題ないだろう?科学で作り上げた和雅のそれも、言い換えれば能力のようなものだ。」

その言葉に納得した龍介と準は顔を見合わせて頷き、和雅が能力武装を使う事を了承すると、少年達は距離を取って構えた。

訓練開始の合図には、投げるコインが地面に着くと同時に開始となる。

坊主頭の少年、坂井準が、おもむろに黒いジャケットの中からコインを取り出し、指に乗せるとすぐに弾いた。飛び上がったコインがゆっくりと落ちる。

そのまま地面に落ち、チャリンっという音が聞こえた瞬間、和雅と準が颯爽と動き出す。

二人は一瞬で龍介の元に距離を詰め、準は能力で日本刀の形をした武器を作り出して一振り、和雅は右腕を突き出した。

急な挟み撃ちに驚いた龍介は、両腕でその攻撃を受け止めた。

能力の乗った拳に、剣を素手で受け止めれば、本来ならば大心龍介の腕は無事では済まない筈だが、少年は自らの超能力で腕を変形させる事よって無傷で受け止めていた。

彼の能力は『肉体変化』超能力の中では、念動力、瞬間移動、透視などに続いて、比較的発現率の高い能力だが、龍介の力は特殊だ。

通常、肉体変化といえば、鉄や銅などの物質から動物など様々なものに変化できるのが多いのだが、少年が変化できるのはただ一つ、『龍』または『恐竜』といった部類の種族にしか変化できない。

刃と拳を受け止めた彼の手は大きな爪、白く硬い鱗が覆われた龍の様な腕になっていた。

「よし!今回も龍くんに能力使わせた!」

「くっ!」

満足げにニヤリと笑う和雅と準。

焦る龍介はさらに能力を発動し、背中から大きな翼を生やした。

その翼は片羽で少年1人を覆い尽くすほど大きく、白くひし形で爪なども生えた強靭な翼は、次の瞬間に羽ばたくと、和雅と準を薙ぎ払った。

振り払われ、すぐに受け身をとった少年二人のうち、龍介が坂井準の方に狙いを定めると、追撃にかかる。しかし距離を詰めている間、横から割って入るようにして来た和雅に邪魔をされ、拳と拳がぶつかり合う。

その後すぐに距離をとった大心龍介が、声を上げてこう言った。

「ちょっと準、和雅?僕を集中攻撃してない?これはサバイバルだよ?」

「サバイバルでは、一番強い奴が狙い撃ちされるのは仕方のない原理だぜ、龍介。」

死んだような目の少年、本藤和雅にそう言われ口を噤んだ龍介だが、彼は内心こう考えていた。

(一番強い奴・・・か、確かに少し前まではそうだったかもしれない。だけど、今は僕一人で二人の相手をするのはかなりきつい。前よりも準の実力は格段に伸びていて、一対一で戦うのもどっちが勝つかわからないところまで来ているし、和雅においては、あの手に持っている機械のお陰だろうか?いつもなら、ここまで激しく超能力を使えば、バテて息切れを起こしていたのに、今の彼は涼しい顔をしている。もし、この状態で何時間も戦えるというのであれば、恐らく僕はどちらかというと、実力で彼に劣っている・・・。)

龍介にとっては認めたくないが、それが現実だと言わざるを得ない。

彼らの実力はもうそのレベルまで来ている。

そうしてまた少年達のサバイバル形式訓練は激しさを増す。組み合いは誰かが降参し、勝者が一人決まるまで続いた。

そんな訓練の終わりに、解散しようとする少年達の中で、龍介だけが最後に父である真に呼び止められた。

親子水入らずで、訓練室に残った二人の間には少しの沈黙が流れ、それに耐えかねた龍介が声をかける。

「話とは何ですか?局務長?」

「龍介、今日の和雅と準はどう思った?」

「え?ああ、凄く成長していて驚きました。まさか僕が一番はじめに降参する事になるとは思ってもいませんでした。」

「その後の二人の戦いを見ていたな?どう思った?」

「はい。かなりハイレベルなものでしたね。ちょっと前まで素人だったとは思えません。」

「そうだな。それは俺も同意見だ。だが・・・。」

そう言って大心真は言葉を詰まらせたが、龍介が頭に疑問を浮かべているのを見て、鋭い目つきになった彼はこう言い放つ。

「だが、お前の体たらくはなんだ?」

「・・・・え?」

「簡単に実力を超えられて悔しくはないのか?まさか訓練を怠っていたのではないだろうな?」

「・・・・・・。」

「二度と私にあのような姿は見せるなよ。」

それだけ言うと真は、辛辣な表情を少年に向けて、部屋を出て行ってしまった。

優しそうな見た目の少年、大心龍介はしばらく呆気に取られていたが、徐々に歯を食いしばっていき、ついには唇を噛みすぎて血を垂らしていた。

少年は真の言葉を脳裏で思い出す。

悔しくない訳がない。本当は今から泣き叫びたい程に悔しかった。

彼が生まれてから少しずつ積み上げてきた実力を、こんなにもあっさり超えられたのだから、でもそれ以上に友として、その場は喜んでいただけなのだ。

龍介は別に訓練を怠ったりしていない。努力は人一倍している。

それを他人にひけらかそうとも思わない。でも、父である真には分かっていて欲しかった。

いや、分かってくれていると思っていた。

少年はただうつむき、静かに涙を零した。

次話

日曜日。この日も和雅は妹みどりと共に買い物に来ていた。ショッピングモールに入れば、いつも通りゲームセンターに行き、楽しむことを忘れない。 ...
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
スポンサーリンク