小学生編 第31話 差し迫った事態

その後の本藤和雅の心と言えば、激しく乱れていた。

(始めて人を殺した人を殺した人を殺した・・・・・・。)

手が震える。全身に鳥肌が立ち、謎の恐怖感で寒気がする。

本来少年がいた地球で、普通に生活していたのなら、無かったであろう人殺しの経験、朦朧としながらそればかりを考え歩く和雅に、次に襲ってくるのは途方も無い罪悪感だ。

「もう嫌だ。地球なんでどうでもいい。命なんてどうでもいい。友なんて、、、どうでもいい。・・・!?」

一瞬でもそう思ってしまった自分に対しても、罪悪感が溢れ出し、絶望しまた落ち込んでいく。

「俺は、何を・・・。」

終わらない感情の負の連鎖は、少年の心を深く蝕んでいった。

どん底に落ちていく感情の中で、和雅は森が開けている場所を見つけた。咄嗟に姿勢を低くし、茂みに身を隠してその場所を観察すると、そこは恐らく敵軍の基地のようだった。

長方形の黒い壁の要塞に、敵兵が周りを囲む様にして並び立ち、その近くには見覚えのある宇宙船が放置されるように置かれていた。

(あれは美咲さんの宇宙船だ。)

その宇宙船が情報局、上級情報員 白石美咲の物だとすぐに分かった。間違いなく敵軍に捕らえられている。

当ても無いところを、偶然にもこんなに早く少女を見つけ出す事が出来たのは、かなりの幸運だ。この好機を逃す手はない。

本藤和雅は現状を把握して、色々と考えていたことが頭から消え、美咲を助ける事だけで一心になる。

「一か八か・・・。」

和雅が今考えているのは、敵に見つかることなく美咲を奪還する方法だ。

それは至って単純、彼の持つ時間操作の超能力を使って時間停止を行い、そのまま美咲を連れ帰るという方法、しかしこれにはデメリットもある。

本藤和雅が開発した能力武装「時間」の補助のおかげで、少年は行使できる超能力の時間は大幅に伸びたが、それでも和雅の超能力自体の燃費が悪いことに代わりは無い。

恐らく美咲を取り返した後は、エネルギー切れで殆ど動けなくなるだろう。だが少年は、躊躇無く行動に移る。

目を閉じ、頭の中で停止をイメージする。縦に二本の線のマーク、そして目を開けると、世界は真っ暗闇となっていた。

「へっ。」

予期せぬ出来事に和雅は慌てて超能力を解除した。すると世界は光りを取り戻し、敵軍基地が見える景色が目に入る。和雅少年は今の現象を冷静に分析する。

(そうだ。時間が完全に止まった世界と言うのは、光りも止まっていれば、空気も動かない。だからあの様な現象が起きるんだ。つまり、自分が身動きもとれ、世界が見える状態で動く為には、時間を出来るだけ遅く動かさなければならない。)

停止ではなく時間を遅くすることでしか行動できない。と言うことは、少なからず自分が行動したという証拠が大きく残る事になる。

その分美咲を奪還してから、こちらが側が早く敵軍に見つかるリスクは跳ね上がるが、致し方ない。

和雅は深くため息を付き、心を落ち着かせるともう一度、超能力を発動した。

頭の中で左側を向いている三角の矢印を思い浮かべると、世界が止まったかのようにゆっくりと動き出す。すると和雅は駆け出し、真直ぐに敵軍の懐へと潜り込む。

止まっているかのように動かない兵士の間を潜り抜け、セキュリティを掻い潜り、時に壊して奥へと進む。しばらく中を探索し、和雅の体感時間ではもう5分は超能力を使い続けている。

早くも和雅の息は上がり、体力もかなり消耗していた。

「不味い。早く見つけないと」

少年の焦りが顔と言葉にでる。どうしたものか、当てもなく探し続けるのは危険だ。

そうして駆け回っているといかにも怪しい、異質に色濃く分厚そうな扉を発見する。もうなり振りは構っていられない。

(この扉を壊して中を見たら、片っ端から扉を破壊して中を確かめて行こう。)

時間が遅くなった世界では、物体の速度が違うため、早く動いている和雅は、全ての物が簡単に壊せるくらいに柔らかく感じる

決意してから和雅少年は、躊躇無く分厚い扉を蹴破った。するとその部屋の中には白い布と鎖のような物で強く拘束されている姿があった。

美咲のそんな姿に和雅は憤りを感じたが、拘束具を見てすぐに助けたい為に伸ばした手を引っ込めた。

超能力者である白石美咲が、この程度の拘束具すぐに解けないのは、不自然では無いだろうか?もちろん拘束前に薬を盛られたか、暴行を受けたかで満身創痍な可能性もあるが、もしこの拘束具に何らかの能力を封じる効力があるとしたら、これに触れた途端、和雅自身が発動している『時間』の超能力が一時的にでも封じられるような事があれば、今後の行動に致命的だ。

和雅は自分の軽率な行動を恨んだ。乗り込むにしても、もっと慎重に動くべきだった。しかし、今更それを言っても仕方が無い。

決心を固め、なりふり構わず拘束具に手を触れた。すると思った通り、発動していた超能力は強制的に解除され、時間が元との速さに戻る。

焦りからか必死になって、無理やりに巻かれている鎖を素手で引きちぎった。

これが火事場の馬鹿力と言うものなのだろう、時間の戻った世界で少年は、無意識に人間の筋力では成し得ない事をやってのけていた。

そうやって鎖を全て取り外していると、敵基地内で警報音が鳴り響く。

『シンニュウシャアリ、シンニュウシャアリ。』

焦った和雅は白い布で覆われた美咲を両手に抱えると、そのまま超能力を発動した。時間が止まったかのようにゆっくりと動き出す。

どうやらこの白い布には超能力を妨害する効力は無いようだ。

本藤和雅は安堵し、すぐさま走り出した。体力も残り少ない中、悠長にしている時間などない。来た道を戻り、急いで外へと駆け抜ける。

敵基地を抜け出て森の中に入り込み、ある程度距離を取ったところで能力の発動を解除して、手に抱えていた白石美咲をそっと下ろし、彼女に並ぶようにして倒れた。

「はぁ、はぁ・・・流石にキッツイな。」

地面に伏しながら、美咲を横目に見る。気を失っているようで彼女は目を覚さない。

(これからどうするか、宇宙船は大破してしまって乗れるような状況ではないし、味方の救援もあまりあてにならない。)

少年が思考を巡らせているそんな時、和雅は途轍もない悪寒を感じ、つい超能力を発動してしまった。時間がゆっくりと動く世界で、悪寒を感じた敵基地方面へ視線を送る。

そこには本藤和雅と白石美咲に触れる少し手前で、爆風のような赤い火炎が迫っているのが分かった。恐らく敵からの爆撃だろうが、見渡してみると炎の範囲が大きのが分かる。

「まさか侵入に気がついたからって、この辺一帯を爆弾で吹き飛ばそうってのか?」

全身が震え、自分にだけ2倍の重力がかかっているのでは無いかと錯覚するほど重い体に鞭を打ち、再び美咲を両腕で抱え、気合を入れて前へと走り出す。

走る速度も遅くなってしまっているが、少年は賢明に走った。無我夢中で走った。しかし、そんな努力も体力切れには敵わず、能力の発動が解除されてしまった。

凄まじい爆風が本藤和雅を襲う。

「うぁああ!!」

身体が吹き飛ばされ、宙を舞い地面に叩きつけられた。白石美咲の事は爆風と、地面に叩きつけられる衝撃から守ったものの、和雅の身体は致命的な重症を負った。

(やべぇ、身体が動かない・・・。)

爆発の影響か森は平地になり、少年達の姿は敵から丸見えの状態となった。

『いたぞ! 』
『早く捕えろ!!』

敵の声が和雅の耳に届く。まさに絶体絶命の事態に陥った。

次話 次回更新

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