小学生編 第2話 謎の少年

翌朝。和雅少年は複雑な表情で通学時間に通学路を歩いていた。

普段であれば通学時間に家を出ることはするが、授業は受けないので真っ直ぐ通学路へは歩かず、穴場であるサボり場の公園や神社に寄り道をしていたのだが、今回はそれが出来なかった。

それは唯一の友人。坂井準が、わざわざ朝から家まで迎えに来たからである。

そこまでされては流石に登校しないわけにもいかない。横を歩きながら坊主頭の準は、笑顔で和雅の顔を覗き込むとこう言った。

「かずー?今日こそは覚悟しろよー?」

「ちゃんと行ってるだろ。」

「まだ逃げる可能性がある!かずが走ったら追いつけないんだからな!」

「知ってる。じゅんちゃん足遅いもんな?」

「ちがうって!かずが速すぎるんだよ。俺はこれでもリレー選手には選ばれたりしたんだぞ?ぜったい逃げるなよ!」

「逃げないって。」

準が笑うとつられるようにして和雅も笑う。

そんな何気ない一時の会話が、和雅にとってはかけがえのない時間だ。心が満たされるこんな時間が、ずっと続けばいいのにと思えば思うほど時は早く過ぎていく。

早々に行き着いた学校を目の前にして、二人の耳に予鈴が聞こえる。

「やば!かず!もう時間がないよ!授業始まっちゃう!」

「あ・・・もう着いたのか・・・。」

「ほら!走るよ!」

「あっ!待てって!」

先に走って行ってしまった準を、和雅が追いかけようとしたその瞬間、背筋にゾクッと寒気が走った。振り返ると、そこには同い年くらいの一人の少年が立っていた。

「君が本藤和雅?」

急に声を掛けてきた少年は長めの茶髪に、グレーのTシャツ、シーパンを履いていた。

いつも素行不良の上級生に声を掛けられている和雅にとっては、見知らぬ相手に名前を確認されることは日常茶飯事だ。だからこう言う手合いの対処法は心得ているつもりだったが今回は少し違った。

彼は狂気的な不良っぽさのない格好と言動に、優しそうな見た目の普通の男の子。第一印象では多くの人が対面している少年の事を、恐らく素行不良であるとは思わないだろう。いや、実際には不良ではないのかもしれない。

不登校気味なので顔を覚えていないだけでクラスメイトなのかとも思ったが、それにしては不自然な点が多い。

同級生は大半が和雅のことを嫌い、声を掛けるどころか近寄っても来ない。さらに予鈴が鳴ったと言うのに急ぐ様子もないし、ランドセルも背負っていない。

そしてこの少年には、本藤和雅が今までに感じたことのない嫌な予感がした。

空手と言う武術を習い、多くの不良達から喧嘩を売られるようになって、相手の肉体的な力量が大雑把にわかる様になった和雅だが、目の前にいる少年は確実に強い。良く鍛えているのだろう。

それに向かい合っているだけでこの謎の悪寒、武器を持った相手と対面した時に近い感じも覚えた。和雅少年は警戒しつつ威圧的に問う。

「何のようだ?」

「えっとねぇ・・・・・君を殺しにきた。」

その言葉に和雅は、かつて無いほどの恐怖を感じた。まるで本当に殺されるような感覚を、咄嗟に和雅は、友である準が走って向かった学校の方とは反対の道を走った。

格上の相手には戦わずに逃げるのが懸命な判断だ。

それに万が一殺すと言う言葉が本当なら、どんな凶器を持っているかも分からない。

流石に和雅も、そんな相手とまともに戦うことはしない。しかし、どれだけ走ってもまったく距離を離せていないかのような恐怖が募る。だが感じた恐怖に間違いは無く、いつの間にか和雅の横を併走しながら不適に笑う茶髪少年の小さな手が優しく肩に添えられた。

驚愕と恐怖をさらに強くした和雅は反射的に殴りかかるが、彼は簡単に拳を避けると、その腕を取り背負い投げの要領で身体を持ち上げた。

「ぐっ!」

背負い投げに対して、両足で受身をとった和雅に、茶髪少年は関心するとこう言った。

「なかなかいい反応だね。」

「なんなんだお前は!」

「あ、自己紹介がまだだったね。僕は大心龍介たいしんりゅうすけよろしくね。」

大心龍介と名乗った少年は、尚も不敵な笑みを浮かべている。和雅は不意を付いて握られている手を振りほどくと、体制を立て直してまた走り出した。

駆け出して無我夢中になっていた和雅は足元の段差に気が付かず、そのまま躓いて前のめりに倒れ、固いアスファルトに身体がたたきつけられてしまった。

「っ!ここはっ!?」

倒れた場所で周りを確認した和雅は心底衝撃を受けた。

奥に見える道路と川、目の前にある公園の入り口、この場所は3年前友人をなくした“あの事故”のあった道路。すると次の瞬間、和雅少年の脳裏には交通事故の情景がフラッシュバックし、その過去を繰り返すかのように、視界に大きな影が写り込む。

そう大型トラックの大きな顔が。

本藤和雅が体感する時間はその時とても遅く感じられ、尋常じゃないほどの冷や汗が出た。

耳に響くエンジン音とクラクション。引き裂かれた友人の体と、差し伸べられた手。そんなかつての事故の様子が明確に少年の脳裏に浮ぶ。

恐怖と共に。

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

無音。

和雅が叫んだ後に起きたのは不自然なくらいの無音だった。

「え?」

少年は明らかにおかしい状況の変化に、戸惑いながら力なくそんな声を上げた。

怖いほどに静かだ。恐怖に閉じてしまった目を開け、周りを確認すると変わらずそこには左側に見える銀色のトラック。目の前に見える公園。運転手は驚愕の表情で和雅を見つめている。

見つめた状態で止まっている。

世界が時間でも止められたかのように、不自然に止まっている。

「どうなってるんだ?」

異常事態に混乱する和雅はゆっくりと立ち上がり、もう一度周りを見渡した。

それはまるで映画や、高性能の3Dを見ているかのようだった。ゆっくりと後ろを振り返ると、しつこく追い回してきた茶髪の少年、大心龍介が何かを企むかのような顔でこちらを見ていた。

今だ混乱が解けない和雅だったが、すぐに自分の置かれている危険な状況を覆す事をまず優先した。

急いで道路から抜け出し、トラックから離れると止まっている少年、龍介の方に向う。

(よくわからないが、これはチャンスだ。)

そう思うと和雅は容赦なく動かない茶髪の少年を思いっきり殴った。すると。それと同時に世界が動き出し、拳を食らった大心龍介の身体は、和雅が思ったよりも何メートルも強い力で飛ばされた。

世界が元の状態に戻ったことに安心もしたが、強い力のかかった拳の方にも驚いた。しかし、かなり勢いよく殴り飛ばされたはずの大心龍介はすぐに受身を取り、何事も無かったかのように立ち上がった。

今の一撃を受けても、まだ平気そうにこちらへ向かってくる龍介をみて、和雅は声を上げる。

「な!!!」

「痛ったいなぁ・・・・今のは、ちょっと効いたよ。」

その龍介の言葉の後。彼は現実では信じられないような速さで和雅の近くまで移動すると、少年の腹部に拳を振るう。

本藤和雅は何も抵抗できないまま痛みに倒れ込むと、そのまま意識を失った。

次話

和雅は見知らぬ場所で目を覚ました。横になったまま周りを見回すと、小さなテレビや医療機器のようなものが見え、病院の個室のような空間にも思えた。...
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