小学生編 第17話 明確な目標

翌朝。本藤和雅は学校に向かう為の身支度を整えていた。

道具の詰め終わった、もうすっかり潰れてしまっているボロボロのランドセルを見る少年の目には、何かを決心するような強い意志が込められていた。

登校するには、まだ早いと思われるような時間、和雅の予想通りのタイミングでインターフォンの音が家の中に鳴り響く。

「おにぃ、準ちゃんが迎えにきたよー!」

妹みどりの声を合図に和雅は部屋を出て階段を降り、すぐ玄関下に来ている坊主頭の少年、坂井準に挨拶をし、そのまま家を出て学校に向かった。

登校中、準に言われるのは「今日は逃さないよ!」と言ういつもの言葉。「わかってるよ。」と和雅はそれに苦笑いで答える。

そう今日は逃げられない。いや、逃げるつもりはない。

前回は陰口を言われているのを目の当たりにして、つい逃げてしまったが、他人がどう思おうと自分には関係ない。

準だけを友としていれば後の人間は先生を含め、無視していればいい。害をなすなら正当防衛するだけだ。

変わらず少年の目は決意で揺れる。とてもただ学校に行くだけの小学生には思えない、まるで戦場に赴く兵士のような面構えだった。

そのただならぬ空気を横にいる坂井準も和雅から感じとり、心配そうな表情を浮かべていた。

先にある嫌な時間というのは早く訪れるもので、二人の少年はあっという間に学校の正門前まで歩き着いていた。先生や、挨拶をしてくる委員会の生徒たちの列を潜り抜け、下駄箱へ到着すると靴を履き替え、真っ直ぐに教室までの道のりを共に歩む。

死んだような目の少年、和雅は教室が近づく階段を、一歩一歩登るたびに微妙に表情が歪み、汗が出る。

そんな少年を横から見ていて、心配を強くした坊主頭の少年が声をかけた。

「かず?大丈夫?」

「・・・大丈夫だよ。」

心なしか彼の返事は、震えているようにも感じられた。

そして間もなく教室の前まで着き、先導して準がその扉を開ける。

「おはよー!」

彼らしい挨拶で元気よく中へ入る。もちろん同級生の多くが少年に挨拶を返して歓迎した。

続いて本藤和雅が教室に入ると、室内は一変して騒ついた。『えっ?誰?』『あれだよ!本藤くん。』『あぁ!学校に来たんだ。』などの話し声が聞こえたが、彼は何も気にしていないかのように無視をして自分の席を探す。

「かずの席はここだよ!」

そう準に声を掛けられ指を差された机は、進級してから数える程しか登校していない為、何度か席替えがあったのだろう。久しぶりに見る自分の席は、記憶にある場所とは大きく変わっていた。

(確か前は窓側だったよな。今は廊下側か・・・。)

そんな事を考えながら、和雅は坊主頭の準にお礼を言って席の前まで行くと、しばらく使っていないせいで、若干かぶっていた埃を軽く払いのけて自分のランドセルを置く。

荷物を机の下にあるスペースへと収納すると椅子に座ったが、まだまだ同級生の視線は痛く、彼は無視を続けた。

彼らがひそひそと話す言葉の中には、暴言じみたことや、ひどいものもが多かったが、気を張っている今の和雅には聞こえないも同じのようなものだった。

そんな和雅少年の唯一心の救いは、友である坂井準が自分の後ろの席にいると言うことだ。

そうこうしているとチャイムが鳴り、教室に担任の教師が入ってくる。

「ほらチャイム鳴ったぞー。」

ぼさぼさの黒髪に痩せ型の彼は頬がコケ、顔は窶れていた。だるそうに教卓に立つ担任教師の姿は、あまり見ていて良い気分ではない。

「あれ?珍しいやつがいるじゃん。」

教師は生気のない目の少年、本藤和雅に視線を送ってそういった。

「ちゃんと学校にきたんだな。」

どうでも良さそうに吐き捨てる教師。和雅はこの担任が1番嫌いだ。なぜこんな奴が教師をやっているのだろうと疑問に思わざるを得ない。

それはこのだらしない外見もうそうだが、彼は人間としてもまともではない。

別に連絡して欲しいわけではないが、生徒が学校に来なくても親に連絡することすらしないし、授業も教科書を読んでいるだけ、クラスに起こっているいじめも見て見ぬふりをしているし、それどころか教師が生徒をいじめるようなことをする。

嫌みも言えばひいきもし、女子生徒を見る目は異常だし、セクハラまがいのこともする。本藤和雅が学校に行きたくない大きな原因の1つだ。

「じゃぁ、出席をとるぞぉ。」

出席確認が始まると、彼のそのタチの悪さが表に出る。今まで問題なく呼んでいた出席を、和雅の名前だけ飛ばすと挑発するような声でこういった。

「ああ、ごめんごめん。いつもいないから名前呼ぶの忘れてたわ。」

そんな教師の意地悪を指摘するため、坂井準が声を上げようとしたが、後ろ振り向いて首を振る和雅に止められた。したり顔でこちらを見る教師の顔を、少年は睨みつける。

些細なことをいちいち気にしてもしょうがないのだろうが、やられっぱなしと言うのも気に食わない。出席確認が終わり、教師がいくつか話をしてホームルームが終わると、和雅は思いついた仕返しを実行した。

教師が教室を出ようとしたその瞬間、和雅は不適な笑みを浮かべて超能力を発動した。

世界が止まったかのように遅くなる。

何も動かず音もしない。止まったように見えるが、見えるだけで実際はすごく時間が遅く動いているだけに過ぎない。

「今の俺の力じゃ、まだ時間止めることができないか・・・。だけど理論上、完全に時間を止めると俺自身も活動できなくなる可能性もあるよなぁ。まぁそれは止めれるようになってから実験するか。」

和雅はそう独り言を呟きながら、動かない担任教師の前に立つ。

彼の前で少年は今までの恨みを込めるかのように、また睨みつけると踏み出した左足を教卓に引っ掛けるようにして動かした。

「本当はこれくらいじゃ気が晴れないけど、この程度で勘弁してやるよ。」

和雅はそう言い悠々と戻って席に着くと、一息ついてから能力の発動を解除した。

その後起こった出来事は、案の定。教師が教卓に足を引っ掛けて転倒したのだった。

恥ずかしそうに去る彼を見て、教室の生徒達は大爆笑。和雅少年も必死に笑いを堪えていた。しかし、坊主頭の少年。坂井準だけは転倒に違和感を覚えていた。

この出来事がしばらく生徒の間で笑い話になり、担任教師に「ずっこけ教師」とあだ名が付けられたその日の放課後。和雅は準と帰路を共にする為に、彼を靴箱の前で待った。

何かやらなくてはならないことがあるそうで、先に帰って良いと言われたものの特にする事も無かったので、おとなしく待つことにした。転んで恥ずかしそうな、今朝の教師の顔を思い出して少年が小さく笑っていると、急に声を掛けられた。

「おい、楽しそうだな?和雅君よ?」

そう言ったのは、よく和雅に喧嘩を売ってくる上級生たち5人の集団だ。面倒な奴らに声を掛けられた。そう思いながら彼はため息をつく。

「あんた達も懲りないな。そんなに俺に絡むのが楽しいか?」

「調子乗ってんじゃねーぞ、てめぇ!!」

集団の中の男子一人が声を荒らげて前に出たが、先頭にいるリーダー格の少年が止めた。その少年はスポーツ刈りで、一際体格の大きいガキ大将のような面持ちだ。

「おい和雅。そうやって偉そうにしていられるのも、今のうちだからな?いつか痛い目を見ることになる。」

体格の大きなガキ大将は、和雅に眼を飛ばしてそう言い捨てると、他の少年達に「いくぞ」とジェスチャーをして去っていった。

本藤和雅はまた溜息をはくと、死んだような目で天井を見上げ、一言こう呟いた。

「めんどくさ。」

それからしばらく時間が経ち、準と合流した後。和雅達は帰路に付いた。

「そういえば準ちゃん。やらないといけない事ってなんだったの?」

「・・・・・・・。」

「準ちゃん?」

「ん!?ごめん、なんだったっけ?」

何気ない話をしながら歩いていた彼らだが、和雅は準の様子が少しおかしい事に気がついた。何を話しても上の空と言うか、暗い顔で悩みがあるようにも見えた。

「準ちゃん。どうかした?」

「いや、その・・・何というか、間違いだったら申し訳ないのだけど、今朝先生が転んだことがあったじゃない?あれ、もしかしてかずがやった?」

「うん。よく気づいたね?」

「やっぱりそうか・・・どうしてあんな事したの?」

「どうしてって朝のアイツの態度見てたらわかるだろ?ムカいたからだよ。」

「かず、言っていなかったけど仕事以外で、超能力を使って一般人に危害を加える事は、情報局では犯罪にあたるんだ。」

「えっ?そうなの?」

「今は僕たち新人だし、かずも知らなかったみたいだから、今回は大目に見て貰えるだろうけど、それだけは肝に銘じておいてね。」

「う、うん。」

「超能力者はそれだけで一般人とは対等ではないんだ。能力を持っていない人からすれば、僕達は武器を持った人間と等しいんだよ?」

坊主頭の少年。準はいつになく真剣な顔で、和雅に言い聞かせるように言った。

超能力者は武器を持った人間に等しい。その言葉を受けて和雅は自分の超能力への意識の低さを強く心に反省した。

少年は思い出す。

まだ能力もまともに使えない頃に、大心龍介と言う超能力者と対面して感じた、あの恐怖を。

「わかったよ。もうやらない。」

「よかった。」

「なんだよ。その事で今日変だったのか?」

「あれ?僕変だった?」

「うん。ずっと元気がない感じだったじゃん。」

「そっかー。表には出していないつもりだったんだけどな。」

「思いっきり出てたよ。」

それから準の表情は、だんだんともとの元気な少年へと戻っていった。二人の雰囲気が明るくなり、笑顔が溢れる。お互いに心落ち着いたようだ。

「ごめん。そう言えば、かず。最近科学の勉強、頑張っているんだってね。」

「あぁ、うん。」

「そんなに頑張って、何か目標でもあるの?」

「一応ね。」

「どんな?」

「俺さ、タイムマシンのような物を作って見たいんだ。」

「タイムマシン?」

「そう。俺の能力のサポートをしてくれつつ、それ自身に力がある道具。」

「何て言うか、ベタだね?」

「うるせぇ!」

「でも、かずならきっとできるよ!」

「・・・ありがとう。」

和雅は準の言葉に照れて頭をかく。

実はぼんやりとしていて不明瞭な目標だったのだが、言葉に出す事で、彼の中でそれが明確な物になった。将来への希望を胸に、少年は大志を抱く。

次話

この日の夜も白石美咲。上級情報員率いる作戦チームは、情報局から言い渡された仕事をこなしていた。 不慣れだった本藤和雅、坂井準の二人の少...
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