小学生編 第26話 苦しみから生まれる物

暗い、ただ暗い世界で一人の少年、本藤和雅が立ち尽くしていた。朦朧とする意識の中、自分の頭に直接入ってくるような声が、彼の意識をはっきりとさせた。

(和雅。聞こえるか?和雅。)

低く太い声が、少年に語りかけてくる。

(私の姿が見えるか?和雅。)

その声の後、ぼやけた光の玉のようなものが和雅の前に現れた。少年は声に答える。

「うん、見える。」

(どう見える?和雅。)

「光の何か。」

(そうか、まだ結びつきが弱いようだな。)

「あんたは誰なんだ?」

(そうだな、我々は人々から神とも言われている。)

「神?」

(とりあえずは、そう認識しておいてくれ。)

「ふーん。」

(しかし、よかった。お前が無事で、危うく大事な後継者を失うところだった。)

「失う・・・。」

自称神を名乗る光の玉が言ったその言葉を受けて、思考が止まっていた和雅の頭が動き出し、嫌な出来事が瞬間的に映像として脳裏に映し出される。

冷や汗が噴き出した、受け止めたく無い現実を思い出した。

「俺は・・・生きているのか?」

声が震える。あの状況であの後どうなったのか、聞きたく無い。向き合いたく無い。だか、現実は自称神の声によって無慈悲にも伝えられた。

(あぁ、生きているぞ。“下にあったクッション”のおかげでな。)

「それって・・・・おぇえぇぇえええ。」

耐えられなくなった少年は、口から吐瀉物を吐き出した。幼い彼には余りにも高圧なストレスに、頭が掻き乱される様な感覚に襲われ、身体の至る所で、激しく痙攣が起きる。

(もう死のう。)

その概念だけが、和雅の心を支配した。視界が少しずつ赤く狭まっていき、目を血で染められているようだった。

(我を失うな!和雅!!)

低く太い声が頭の中でそう響くと、光が和雅を包んだ。

暖かい。誰かに優しく抱きしめられている。少年に見えたのは、白い羽と青い髪だ。

不思議と安心し、心が落ち着いた。

(和雅。希望を失うな、お前は世界の希望だ。これからも、たくさんの過酷な運命がお前を苦しめるかもしれない。だか、耐え忍べ。お前にならそれができる。)

その言葉を最後に、和雅は光に包まれた。

彼が目を覚ますと、そこは病室のようだった。

身体が少しも動かない。眼球だけを動かし、自分の状況を確認すると、どうやら全身を包帯で巻かれ、固定されているようだった。

(全身を複雑骨折でもしたのだろうか?まぁあの高さから落ちれば当然か。)

少年の頭は嫌に冷静だった。すると病室に入ってきた和雅の母親が、急いで寄り添ってきた。

「和雅!目が覚めたのね!よかった。本当によかった。」

和雅の横たわるベットに顔を伏せ、泣きじゃくる母親。全身全くと言っていい程言う事を聞かないが、精一杯の努力をして、僅かに口だけを動かした。

「み・・・どり・・・・・・・・・は?」

その言葉に涙が止まらない母親は、顔を上げ、今度は声を上げて泣き出した。まだ泣き止みもしないそんな状況で、声にならない声で震えながらこんな風に言葉を返す。

「お兄ちゃんは何も悪く無いのよ。必死にみーちゃんを守ろうとしてくれたもんね?ごめんね?本当にごめんね?」

そんな母の言葉で和雅は全てを察した。

守れなかったのか、その思いだけが少年の頭を埋め尽くし、無言のまま、涙だけを流した。

その日の夜。

気を失うように眠っていた和雅は、目を覚ました。

何か楽しげな夢を見ていたような気がするが、起きてすぐ、辛い現実に戻ってきたのだと落胆した。

涙はもう枯れ、身体よりも涙で赤くなった目元の方が、痛みの強いようにも感じられた。するとそんな彼の横に人影が現れた。

その人影が誰なのか、本藤和雅にはすぐわかった。

「かず、大丈夫?」

そう声を掛けてきたのは、坊主頭の少年、坂井準だった。

彼はとても心配そうな顔を浮かべている。

準が姿を現して、和雅はゆっくりと起き上がった。超能力を使い、身体の時間を戻すことによって、骨折した筈の全身を直しながら立ち上がると、腕についている点滴の針を刺し乱雑に取り、投げ捨ててからこう言った。

「お迎えか?」

「うん。一応そうなんだけど、今日はこんな日だし、お休みしていいって局務長が言ってたよ?」

「そうか・・・。なら研究室に居てもいいかな?」

「・・・・うん。たぶんいいと思うよ?」

「わかった。行こう。」

「・・・・・・・・かず?」

「なに?」

「大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。」

嘘に決まっている。準には分かりきっていた事だが、この時は何も声が出なかった。

坂井準と別れ、研究室にこもってから、和雅は狂うように何かを作り始めた。ただ無心にコンピューターに向かいながら、手元の小さな、透明な丸い玉に必死に機器を埋め込んでいた。

張り付くように、すがるように機器の制作に打ち込み、そして和雅はあるものを完成させ、こう呟いた。

「ははっ、頭の中だけで組み上げた理論を、こんなにもあっさりと形に出来てしまうなんてな。」

皮肉に表情を浮かべながら、和雅は枯れたと思っていた涙を流し、また研究に没頭した。

次話

本藤和雅が妹を失ってから、数ヶ月の時間がたった。 あれから狂うように研究に没頭した彼は、新たな能力武装『空』を開発した。 その機...
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