小学生編 第1話 苦労のはじまり

ある小学校の体育館裏。ここは普段、立ち入り禁止のPOP広告と紐が一本だけ引かれており、本来生徒は立ち入ることの出来ない場所だが、素行の悪い生徒達は無断で立ち入り、小学生ながらタバコや喧嘩、いじめなどの格好の穴場になっていた。

教師達もそれを知って見回りや、立ち入った生徒の指導など行っているが、なかなか改善しない現状にあった。

そんな体育館裏に4人の少年達がいた。4人の内の3人の少年が呻き声を上げながら倒れている。

少年達を1人見下げているのは、黒髪短髪、鼠色のパーカーに七部丈の青いズボンの少年。一見悪いことをしないような顔立ちなのだが、どこか死んだような目をしている彼の名は本藤和雅ほんどうかずまさ

和雅はしゃがみ込み、三人の少年達を睨みつけると威圧するように言う。

「お前らさ、もう喧嘩売ってこないでくれる?」

そうこの状況は別に彼が3人をいじめている訳ではなく、その逆だったのだが倒れている少年達は呆気なく返り討ちにされたのだ。

彼ら3人は小学6年生、本藤和雅は小学4年生だったが、体格や年齢の差など無いかのような圧勝ぶりだった。

和雅は別に素行が悪いわけでもないのに、ただ顔が生意気だと言う理不尽な理由で喧嘩を売られることが多々あった。

小学校に入学してから空手の道場に通っていた彼は喧嘩で負けることは無かったが、和雅に絡む素行不良の少年達が後を絶たないせいでますます喧嘩を買い。教師達に目を付けられ、いつからか不良扱いされてしまってからは不登校気味になり、本当に不良の様になっていた。

「なんでこうなるかな、いっつも・・・」

和雅はそう言うと、倒れている少年達を放置してその場を後にする。すると寂しげな彼の背を見つけた一人の少年が、追うように近付いて来ると声を掛けてきた。

「やっと見つけた!」

そう走って来た少年の名は坂井準さかいじゅん。坊主頭で見るからに元気そうな半袖半ズボン男の子。麦藁帽と虫かごを装備して、虫取りによく行ってそうな印象を持ったこの少年は、和雅のクラスメイトであり唯一の友達でもあった。

後ろのほうで倒れている三人の上級生達を見て、準は苦い顔をすると言う。

「あれ、かずがやったの?」

「まーね。」

「強いな、かず。」

「空手やってからね、で?どうしたの?」

「あーそうそう。はい!今日の宿題!」

「・・・・・・・・・じゅんちゃん、嫌がらせのように宿題だけは持ってくるよね。」

宿題のプリントを貰って嫌そうにしている和雅の言葉に被せる様に、準は真剣な顔をして言う。

「授業ちゃんと受けないとダメだよ?」

「・・・・・・・・・」

準がそう言うのも和雅は学校に来ることはしても、教室に行って授業を受けることはせず、いつも体育館裏や穴場となる場所で学校が終わるまでサボっていた。

無言で俯いた和雅をみて、何かを察した準は同情するように言う。

「かずの気持ちはわかるよ。上級生には喧嘩を売られて、先生には嫌われて、クラスメイトにも嫌われて、行く気無くなるよな?・・・だけど・・・。」

「ただ、勉強が嫌いなだけだよ」

「・・・そっか。」

坂井準は知っていた。その言葉はただの強がりだと。和雅はこうやって平然としているが精神的にすごく弱く傷つきやすい。嘘を付く事で弱い自分を隠して守っている。

そんな彼を準は心底心配していた。いつか壊れてしまうのではないかと。

「よし!宿題も渡したし、そろそろ行かないと習い事がはじまっちゃう。」

「そう言えば前にも聞こうと思っていたけど、習い事って何をしてるの?」

「教えなーい。かず!明日は学校こいよ!じゃあな!」

それだけ言うと元気良く準は走り去ってしまった。

「おい準ちゃん!なんだよ水臭いな・・・。」

そう和雅は呟くと、ふと空を見上げた。風が吹き“あの日”を思い出す夕焼けに、ため息をつきたくなった。

この夕焼けを見ていると、トラックの事故で死んだ友達のことを思い出してしまう。

あの事故から3年たった今でも当時の様子は、和雅の目の裏に呪いのように焼き付いている。それからだろうか、彼がなんだか死んだような目になったのは。

「今日はもう帰ろう。」

和雅はそう言うと、とぼとぼと歩き出し帰路についた。家に帰り着くと、扉を開けてすぐ「おかえり、お兄ぃ」と妹が奥から顔を出した。二歳下の妹は玄関の方へ駆け寄ってくると、満面の笑みで和雅を迎える。

普段出迎えなんてしない妹の行動に和雅は違和感を覚えたが、珍しいことをしているなと心で密かに思うと、適当に挨拶を返し、彼女の横を通り過ぎようとした瞬間。妹は突然に怒り出した。

「おにぃ!私のプリンを食ったでしょ!?」

「食ってない!」

「うそ!」

あらぬ誤解を受けた和雅は、面倒臭そうに妹をあしらうと自室のある二階へと向かった。

部屋に入ると無造作にランドセルをベッドの上に置き、ため息をつきながら寝転んだ。授業なんてまともに受けていないが家族の手前もあって、朝から学校に行ったように家を出ている。どうせ和雅が授業に出なかったところで、不良生徒の事を毛嫌いしているあの担任教師は家族に電話もしないだろう。

そもそも和雅についている“不良”なんてレッテルはまったくの誤解で、ただ正当防衛していただけだ。こちらから何かした覚えは無し、真面目に授業も受けていた。

正当防衛すればする程、上級生にはいちゃもん付けられて喧嘩をふっかけられるし、教師にそれを行ったところで、具体的に行動しないどころとか無下に扱われる。

そんな風にどんどん居場所がなくなっていった。和雅はそんな毎日が物凄く嫌だった。

ゆっくりと目を閉じる。

夕飯まで寝てしまおう。時間になればきっとあの騒がしい妹が起こしに来ることだろう。

「おかえり、お兄ぃ」

「え?」

奥から顔を出した妹が、満面の笑みで玄関にいる自分の方に駆け寄ってくる。

「あぁ、またか。」

そう言うと和雅は小さくため息をつく。

「ただいま。プリンは食ってないぞ?」

「え!?なんでプリンの事分かったの!やっぱりお兄ぃだ!!!」

「ちがうわー!!!」

そうまたも妹をあしらい玄関から二階に上がってまた自室に入る。今のは夢でも妄想でもない現実だ。

この小さなタイムスリップのような現象は“あの事故”以来、和雅の身の回りでよく起こるようになっていた。もう何百回とも経験している。

この現象自体はそこまで自分に害を及ぼす訳でもなく。ただほんの数分だけ時間が戻るだけ、何が原因でこうなるのか和雅には皆目見当もつかなかった。

初めは動揺したが、何度も起きるこの現象に最近は驚くどころかもう別に気にしなくなっていた。 和雅はもう一度ベッドに横になると、考えるのを放棄して同じように目を閉じた。

次話

翌朝。和雅少年は複雑な表情で通学時間に通学路を歩いていた。 普段であれば通学時間に家を出ることはするが、授業は受けないので真っ直ぐ通学...
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