小学生編 第10話 これからへの誓い

本藤和雅、坂井準、大心龍介の少年達は半年間、毎日死ぬ思いをしてきた訓練場で、師である大心真の到着を待っていた。

嫌な時間や苦痛な時間というのは長く感じるもので、無限に続くのではと思われたここでの訓練も、真に終わりの言葉を掛けられたあの瞬間は、まさに人には言えぬほどの達成感と開放感を味わった。

そんな思い入れ深い場所で三人の会話は不思議と弾む。

「でも、ここでの訓練がもう無いと思うと、ちょっとだけ寂しいよね。」

「じゃあ、準ちゃんだけもう一回訓練していくか?」

「い・・・いや、遠慮しとく・・・。」

準の言葉に和雅がからかって返す。そんな二人を笑みを浮かべて眺めながら龍介は言う。

「本当に二人は仲がいいね。」

「まぁな、でも龍介。お前ともそうだろ?」

「僕も・・・?」

和雅に言われた言葉に、龍介は意外そうな顔で答える。

「そうだよ!もう半年間もここで一緒に訓練してきた立派な友達じゃないか!・・・・あれ違うの??」

坂井準が首をかしげてそう問いかける姿に、龍介はあっけにとられた顔をした。

それは彼の今までの人生では考えられなかった事だったからでもある。情報局の局務長である大心真の元で育てられた龍介は、物心付いた時から超能力の訓練を行い、父の仕事を手伝いながら育った。

そんな地球で言う普通の子供とは、まったく違う生活を送っていた龍介にとって“同年代の友達”と言う存在は今まで出来た事が無く、作れるような環境でもなかったのだが、二人と出会って大きく変わった。

訓練中は助け合い、休憩中はふざけあう。一人で受けていた厳しく苦痛な訓練も、和雅と準がいると楽しく思えた。

(そうか、これが友達と言うものなのか。)

急に喋らなくなった龍介を、心配した和雅が顔を覗き込み問う。

「龍介?」

「あ!ごめん、何でも無いよ。・・・そうだね。僕らは友達だ!」

そんな風に元気を取り戻した龍介をみて、準と和雅が顔を見合わせて安心すると準が言う。

「びっくりしたー!友達じゃないって言われるかと思った。」

「そんな事ないよ!僕、友達が出来たの始めてでさ。」

そう照れくさそうに言う龍介をみて、和雅は何かを思いついたのか不適に笑うとこう切り出した。

「よし!じゃあ三人で桃園の誓いをしようぜ!!」

聞きなれない言葉に準が聞き返す。

「桃園の誓い?」

「そうそう、俺最近『三国志』の小説を読んでてさ!中国の三国時代に劉備、関羽、張飛の三人が交わした義兄弟の契りでな?生まれた日は違っても、兄弟の誓いを結んだ日からは心を同じくして助け合い、困っている人を助け、人の為に生き、死ぬときは同じときがいいねって言う立派な誓いなんだ!」

楽しそう言う和雅に龍介が反応する。

「いいね。」

「だろ?準ちゃんはどう思う?」

「うん!凄くいいと思う!」

「よし!じゃあ早速誓いを結ぼうぜ!あの三人はお酒でやっていたけど、俺達は飲めないから・・・・。」

そう言って和雅が辺りを見渡すと、訓練の時にいつも使っていた水分補給用の紙コップを見つけと手にとって言う。

「これでいいや。」

「「適当だなー。」」

「うるせい!!心がこもっていればいいんだよ!」

準と龍介の声を合わせた突っ込みを、和雅があしらうと紙コップの近くにあった給水所から水を入れ、二人に渡した。水が行き渡ったことを確認した和雅はこう切り出した。

「よし!水は行き渡ったな?じゃあ始めるぞ?」

「でも、かず?僕達の場合、桃園ではないから、訓練場の誓いになるんじゃないかな?」

「確かに。・・・じゃあ、アレンジして親友の誓いにしよう。」

龍介は自分には程遠いと思っていた“親友”と言う響きに、貰った紙コップの中の水を見ながらほくそ笑む。

「親友か・・・いいね。」

「内容はほぼ一緒だ!親友の誓いを結んだ日から、俺達は心を同じくして助け合い、困っている人を助け、人の為に生き、死ぬときは・・・・・・・。」

「かず?」

「いや、死ぬなんて時の事は考えたくなくてさ。そりゃいつかは死ぬ事になるとは思うけど、俺は出来る事なら“死”と言う言葉は使いたくない。」

「和雅・・・。」

「だから死ぬじゃなくて、最後は最高の別れを迎えられるといいねって事にしよう!」

和雅の提案に否定の意見が出ることは無かった。そして三人はそのまま紙コップを合わせ、乾杯して水を飲み干した。

飲み終え、それぞれが顔を見合わせて笑みを浮かべる。その笑みは、なんだか幸せなような、気恥ずかしいような、嬉しいような複雑な気分が相まっていた。

そんな中、少年達の間に野太い男の声が横から入る。

「桃園の誓いとは渋いな?和雅。」

その声の主は情報局の局務長であり、彼らの師である大心真だった。少し恥ずかしい場面を見られた三人は、動揺を見せたが顔を赤らめながら和雅が真の言葉に言い返す。

「わ・・・わるいかよ。」

「いいや、悪くはないさ。」

意外にも優しい声と笑顔で、真に答えられた和雅は驚いた表情を見せる。

鬼のようだと思っていたこの人も、こんな顔で笑うのだと意外に思った。すると割ってはいるかのように、大心真に付いて来ていた見知らぬ女の子が、後ろからひょこっと顔を出した。

「紹介しよう。これから下級情報員になるお前達のチームリーダー。上級情報員の白石美咲しらいしみさきだ。」

「始めまして、白石美咲です。これからよろしくね?」

オールバックの男。真にそう紹介され、挨拶をした彼女は綺麗で整った顔立ちをしていた。

茶髪が肩の長さまで伸びていて、可愛い動物の絵の入ったTシャツにミニスカート。ニーソックスに、よく手入れのされているローファーを履いた少女は、姿を現してすぐ和雅と準に近付きじろじろと二人を眺める。

眺められる沈黙に耐えかねた坊主頭の準が、顔を赤くしながら言う。

「な、なんですか!?」

「いやー、二人とも可愛いなって思って。」

その言葉を間に受けた準はさらに顔を赤らめる。そんな彼とは対照的に、和雅はいたって冷静に問う。

「龍介は知り合いなの?」

「うん、そうだよ。お久しぶりです美咲さん。」

「龍くんおひさー!でも、私たちが知り合いだってよくわかったねー!?どうして?」

そういいながらグイグイと距離を詰めてくる美咲に、和雅は後ずさりしながら答えた。

「近い近い!!あんたが俺と準ちゃんしか見てないから、何となくそう思ったんだよ!!」

「なるほどー!なかなか周りが見えていて優秀だねぇ!」

「だから近いって!」

和雅に近寄ってからかう美咲を、大心真の言葉が止める。

「その辺にして置け、美咲。」

「はーい。」

詰まらなさそうに美咲が隣へ戻ってきたのを確認すると、真は話を戻す。

「今日よりお前達は、上級情報員の美咲の下でいくつか仕事をこなして貰う。仕事の成果はうちの信用に関るものだ、失敗は許されない。心して掛かるように!」

「「「はい!」」」

こうして少年達はこれから情報員としての仕事が始まる事になる。和雅は一人、親友となった二人を横目で大切に思いながら、彼らを守る為ならどんな努力もする事を、心の中で硬く誓うのだった。

次話

夜の東京、六本木ヒルズにあるガラスの多い大きなビルの屋上で、一人の男の子が身を潜めながら、向かい側にあるビルの様子を、手に持つ単眼鏡のような...
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