小学生編 第30話 悲しい出会い

本藤和雅が目を覚ますと、そこは緑が生い茂る森の中のようだった。近くには壊れた宇宙船の破片などが見えている。

彼は美咲を追うと決心した後、敵の追撃を受け、制御を失った船とともに地上に落ちてしまったのだ。ふと立ち上がろうとした少年は、全身に激しい痛みを覚え、また力なく地面に顔を伏せる。

痛む身体を良く見てみると、どうやら全身のいくつかの箇所と左腕を骨折しているようだ。

和雅は頭の中で左側を指す三角の模様が入ったボタンをイメージし、超能力を発動した。すると和雅の身体は少しずつ原型を取り戻したが、まだ治りきらないところで少年は能力の発動を止めた。

(痛い・・・けど、体力の温存はしておかないと、こらから何が起こるかわからないからな。)

考え少年は行動する。ボロボロの黒いジャケットの胸ポケットの中にある能力武装が壊れていないか動作確認し、問題ない事に安堵すると、ポケットに戻し入れる。

周囲を確認し、宇宙船の破片を調べ、使えるものがないか見ていたが、どれも故障していているようだ。すると少年は痛む左手を抑えながら、トボトボと歩き始めた。

険しくなんの整備も整えてられていない森の中を、草木を掻き分けて、先に墜落した白石美咲の宇宙船を探す。たがこの広い星の中から、当てもなく一つの宇宙船を探すのは不可能に近い。

(これじゃ拉致があかない。情報と道具が必要だ。・・・・敵軍に乗り込むしか無いか・・・・。)

和雅は心の中で、一人で敵軍へ立ち向かう決心を固める。あまりにも無謀な考えだった。

強い疲労感と痛み、空腹が重なり、和雅の視界は徐々に霞むようになった。

(何か食べるものを探さなくては・・・・。)

そんな風に意識朦朧としながら歩いていると、何やら芳ばしい香りが彼の鼻をついた。

少年は慌てるようにして匂いの元へ走ると、そこには焚き火と、木の枝に串刺しとなった魚を焼きながら、それを眺めている屈強な男がいた。

彼は和雅に気がつくと一瞬驚いたような表情を浮かべたが、物欲しそうにしている少年を見てこう言った。

「なんだ坊主?一緒に食うか?」

そう言って差し出されるこんがりと焼けた魚に、和雅は戸惑いと疑いの目を向けた。

ここは天川帝国の領星、いつ敵が現れてもおかしくはない。タンクトップの白いシャツにボロボロの黒いズボン、そんな服装を見る限り、この男は一般市民ではあるのだろうが、地球人のように宇宙が戦争中であることを理解していないのだろうか?

そう考えると、ある意味こんなところで呑気に焚き火をしている男の事を、少し羨ましく思わなくもない。

「なんだ?食わねぇのか?」

和雅は再度言葉を受けて、向けられている魚に目をやる。

ここは地球ではないので、正確には魚では無いかもしれないが、その芳ばしさに少年は、腹から低い音を鳴らし、どうにも我慢できなくなった彼はすぐさま駆け寄り、男から焼き魚を受け取って、必死になって貪った。

十分に火が通っていたそれは、今までに食べたどんな魚も上回るほど唸る味で、生きていることに感謝の念を抱きながら、目に涙を浮かべた。

夢中で頬張る少年を、微笑ましく見守る男。和雅は夢中で魚を食べきると、落ち着いた後、こう質問した。

「おじさんは、ここで何をしているの?」

「うん?自給自足だよ。戦争が始まって混乱した都市や、人の集まる所は無法地帯だ。下手に他人と接触するよりも、森の中で身を潜める方が安全だ。坊主はどうなんだ?なんでこんなところにいる?」

和雅少年はこの質問に焦って頭を回転させる。まさか「自分は情報局の情報員で、天川帝国の攻撃を受けて墜落してきた」などと言える訳は無い。しかし和雅は、男との会話の中で、この星の現状に関する有力な情報を手に入れていた。

「・・・・・僕も逃げてきたんだ。」

逃げてきた。と言う言葉も嘘ではないが、咄嗟に出た返答ではあったが、話に合って怪しまれない最善の返しだと慢心する。

「まぁその様子じゃ、そうだろうな。」

男は和雅のひどくやぶれ、汚れた服装をみて、哀れみの目を向けてそう言った。

「坊主?名前は?」

「かずまさ、おじさんは?」

「アルバードだ。」

「ふーん。呼びにくいからおじさんでいいや。」

「おい。」

すると、二人の会話の間で鈍い音がなる。音は和雅少年の腹部から鳴ったのがよくわかり、その音を聞いたアルバートは大きく笑うとこう言った。

「まだ食べ足りないようだな?」

「・・・・うん。」

「よし一緒に釣りにでも行くか!」

恥ずかしそうな和雅に、アルバートは優しい笑みを浮かべてそう言った。

それから和雅は、男に川の近くへと連れて行かれると、釣りの仕方を教わった。手に持っていた黒い30センチ程の棒を伸ばし、先から糸と針が出る仕組みになっている携帯用の釣り竿を渡されて少年と男は、魚がかかるまでのひと時を楽しんだ。

「おじさん。なんで見ず知らずの僕に、こんなに良くしてくれるの?」

「うん?そりゃあガキを見捨てる程、人間捨てちゃいねーよ。それに・・・。」

「それに?」

「俺にはお前くらいの息子が居てな、その息子にお前が良く似ているからかもしれねぇな。」

「ふーん。」

二人は戦争の事など完全に忘れ、長閑のどかな時間を過ごす。魚が二、三尾釣れると、焚き火で焼き、何気ない会話をしながら、またひと時を楽しむ、その時間は短いようで、とても長く濃く感じられた。

(もう少し、こうしていたい。)

本藤和雅は心からそう思ってしまった。現実逃避に近いのかもしれない。

本来なら平和な世の中で、日常的にこうしたひと時を過ごす筈だった少年のささやかな欲望。だか、そんな彼の願いもこの一言で終わりを告げる。

「おい、かずまさ。服についているそれ、なんだ?」

「うん?ただのマークだよ。」

和雅がそう言うと途端、少年の横目に刃が映り込む。

急な事に驚きつつも、身を後ろに曲げてなんとか刃が自分を斬りつけるのを回避することが出来たが、和雅少年の動揺は抜けない。攻撃してきたのは、紛れもなくアルバートはだからだ。

「かずまさ、お前、情報局の人間だったんだな。」

「・・・・なんっ、ちが!!」

「そりゃそうだよな。こんなところで聞きなれない名前をした子供が、一人でうろついているなんて、やっぱりおかしいもんな。」

「違う!これは拾った服で!」

「俺はな?技遊帝国の・・・いや、今は天川帝国なんだったかな?そこの兵士なんだよ。鍛えられた兵士の刃を避けた時点で、もう言い逃れはできないんだよ。かずまさ。」

「・・・・そんな。」

「残念だよ。こんな風になっちまうなんて。」

和雅は動揺する自分を落ち着かせ、この状況をどうにかよい方へ向かせられないかを、必死に思考する。少年が想像してしまっている最悪の状態には絶対にしたくない。

「ねっ、ねぇおじさん。僕はおじさんとは戦いたくない。」

「俺もそうだ。」

「ここはさ?お互いに見逃す事にしない?誰にも合わなかったって事にしてさ???」

「・・・・・和雅。腹くくれよ。ここは戦場だぞ?そんな甘えが許される訳ねぇんだ。」

そう言ったアルバートの表情は曇っていた。

彼も本心では戦いたくはない。特に子供相手、ましてや息子に姿を重ねてしまった少年に対しては特にだ。あえて厳しく振舞っているのも、立場だけではなく、彼なりの優しさなのかもしれない。

和雅は静かに涙を流す。辛い現実に戻された。

上げて落とされるほど、心に来るものはない。少年がまだ現実を受け入れられない中、残酷にも戦闘は始まる。

動き出したのは、アルバートだ。

殺意の篭った突進、本気だ。男は本気で自分を殺そうとしている。

和雅は静かに目を閉じ、そして能力を発動した。次の瞬間には和雅の強く握られた拳が、アルバートの腹部を貫通していた。

「かずまさ・・・・・お前とは、もっと違う形で・・・・・・・出会いたかったよ。」

そう言うとアルバートはガクンと身を落とし、絶命した。和雅はそれを支え、彼をゆっくりと横にすると、見開いたままの瞼をそっと閉じる。

大粒の涙をこぼしながら、少年は答えるようにこう言った。

「・・・・・・・・・僕もだよ。おじさん。」

次話 次回更新

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