小学生編 第12話 科学の師

地球の九州上空。ここにはステルス機能を使い、地上の人間に認識できないようにして浮かんでいる一つの宇宙船がある。

ステルス機能とは、視覚的に宇宙船を見えなくするだけではなく、実態を別次元に移動することで、物質的にも認識されないという機能。感覚的には掴むこともできないので、飛行機の空路などを塞ぐ事もしなければ、雨粒さえも地上に落ちる事を遮られない。

この宇宙船こそが情報局の地球支部である。円盤型で、その大きさは熊本県を半分埋め尽くすことが出来るほど巨大だ。

情報局の構成員。情報員がここに乗り入れる際は、専用のカードを持ち、決められたマンホールの上に立つ事でワープ移動することが出来る。

白石美咲、本藤和雅、坂井準、大心龍介の4人は、ワープ機能のついたマンホールの上に立ち、支部への移動を果たすと、局務長大心真のもとへ向かい、作戦成功の報告を済ませると「よくやった。」と軽くほめられる程度で終わり、作戦チームは解散となった。

それぞれが地上に戻ったり、本部に行ったりと別行動をする中で、生気のない死んだような目の少年、本藤和雅はその情報局の支部に残っていた。

そんな彼のお目当ては、支部にある図書館や、科学の研究資料だ。

今日は金曜日で、明日学校はない。家族には友達の家に泊まると事前に言っておいたので、休みの間は思う存分に資料を読み漁る事ができる。

和雅は早速、図書館に足を運ぶと、その膨大な量の本に驚嘆の声を上げる。

「すっ、すげー。」

壁一面に見渡す限り、本が埋め尽くされ天井が見えないほど高い。流石の和雅少年も、これにはいつもとは違って目を輝かせた。

本の置き場所が分かりやすく書いてある案内板を見ながら、和雅は超能力関連の本が並べられている棚へ向かうと、何冊か手に取り、近くにあった机と椅子に腰掛けて、早々と読書を始めた。

膨大にある本を、手にとって静かに読める事に幸福感を覚える和雅だったが、その幸せを邪魔するかのように、何者かの手が彼の両肩を叩いた。

「かずくん?何してるの?」

そうニコやかに話しかけてきたのは、茶髪ショートカットの少女、白石美咲だった。

これからだと言うところで邪魔をされた和雅は、不機嫌そうな顔を浮かべながらこう言葉を返す。

「なんですか美咲さん。」

「ちょっとー!そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃなーい!」

「本部に帰ったんじゃ、なかったのですか?」

「いやー、かずくんが何するのか気になって、つけてきちゃった♪本好きなの?」

「まぁ、それなりには。」

「凄い楽しそうに、いい顔しながら本を選んでいたものね?♪」

「・・・・・・なんですか。ダメなんですか?」

「ぜんぜんそんな事ないよ?なになに?『超能力者とは』『超自然科学の基礎』『超能力論』ほかにわー・・・。」

「ちょっと見ないで下さいよ!」

「いいじゃない!別にぃ!けち!」

「けちで結構でーす。」

「かずくんなんか私に冷たくない!?」

「美咲さんが邪魔するからですよ。」

和雅のぞんざいな扱いに、美咲は頬を膨らませる。

こうなったら徹底的に邪魔してやろうと言う気持ちになった少女は、少年の隣に座ると、顔をまじまじと見ながらこう問うた。

「なーんで、こんなにお勉強しているの?」

「別に、好きだから。」

「ふーん。それだけ?」

「もう、邪魔するなら帰って下さいよ!」

「嫌だねー!」

(こいつ!)

内心かなりイライラしている和雅だったが、溢れそうな感情を押し殺して無視する事を心に決めた。

無視を始めてから美咲のちょっかいも、突くものから大きな揺さぶり、露骨な嫌がらせと少しずつ激化していき、もう我慢ならないと和雅が爆発寸前なところで、二人に話しかける人物が現れた。

「二人とも仲がいいね。でも、図書館では静かにね?」

優しく注意すると笑顔を浮かべた彼は、スーツの黒いズボンに白いシャツ。黒いネクタイの上に白衣を着た見た目20代くらいの青年で、短い黒髪をワックスで固めて七三分けにしているのが特徴的な人物だった。

「あっ、ごめんなさい。ほら美咲さん。だから静かにしてって・・・。」

和雅がそう言いかけた時、美咲は物凄い勢いで立ち上がり姿勢を整えた。

「ご無沙汰しております!副局務長!」

「あぁ、美咲ちゃんだったのか。」

その会話に和雅は驚愕した。

副局務長といえば、局務長の次に偉い地位だったはずだ。つまりこの組織の中で二番目に偉い。

驚き呆けて体制を変えない和雅少年の頭を、美咲が抑えて下げさせ、自分も詫びるように頭を下げると言う。

「大変失礼いたしました。」

「いや、そんなに怒ってはないよ。」

そんな美咲の対応に困った顔で副局務長の彼はそう答えた。

自分はそんなに騒いでいないのに、何故か無理矢理謝らせられていることに、和雅はまたも少し腹を立てるが、自分の中で必死に抑えた。

「そこの君とは初めてだよね?名前は?」

美咲の手を退け、和雅は頭を上げると、その言葉に答えた。

「本藤和雅です。」

「本藤・・・ああ!君が噂の真くんの教え子の1人か!僕は石川俊道いしかわとしみち。よろしくね?和雅君。」

「はい・・・あの・・・噂ってなんですか?」

「局務長の真君はね?あまり新人の子達に直接訓練を施したりしないんだ。だから彼から訓練を受けている君達3人の事は、情報局内では特に噂になっているんだよ。」

「・・・はぁ。」

「相当つらい訓練だったそうじゃないか、よく頑張ったね。」

「・・・はい。」

その副局務長の言葉を聞き、やはりあの訓練はつらいものだったのかと、和雅は再認識する。

冷静に考えれば当たり前だ、下手したら死ぬような訓練は普通ではい。だが少年の中である疑問が大きく膨らんだ。

何故、局務長大心真は、自分と龍介、準だけに自ら訓練を施したのか、何か特別な理由でもあるのだろうか?思考が深まる和雅だが、次の俊道の言葉でその考えが一気に吹き飛ぶ事になる。

「自然科学に興味があるのかい?」

「え・・・はい。」

「実は僕も研究者の端くれでね。基礎を学びたいなら、僕が教えてあげようか?」

「ほっ、本当ですか!?」

和雅はそう言って、目を輝かせさせながら立ち上がる。

「うん。僕としても科学に興味を持ってくれるのは嬉しいからね。付いて来なさい。」

「はい!」

そう何処かへ案内してくれる七三分けの青年。石川俊道の後ろを本藤和雅はついていきながら、これから自分の知らない科学について、副局務長から教えを乞うことが出来ることに、踊る心を抑えきれないでいた。

希望を胸にいろいろな事を連想する少年だが、ふと横を見るとその少年の顔を眺めながら、楽しそうに後をついてくる美咲の姿に気が付いた。

それをへて冷静に戻った少年は、身構えるようにして彼女に言葉を放つ。

「美咲さん、なんで貴方もついてくるんですか?」

「えー?ダメなの?」

「科学に興味あるんですか?」

「別に無いよ?」

「じゃあなんで?」

「楽しそうだから?」

よくわからない理由でついてくる茶髪の少女。白石美咲に和雅は苦い顔をするが、俊道が察して声を上げた。

「いいじゃないか和雅くん。美咲ちゃんもこれをきっかけに科学に興味を持つかもしれない。」

「別にダメでは無いですけど・・・。」

なんだか複雑な心境の和雅だが、そうこう言っている間に目的地に到着したのか、石川俊道の足がある部屋の前で止まる。

「ここが普段、僕が使っている研究室だよ。」

そう言って彼は、ポケットの中からカードキーのようなものを取り出すと、右側についている認証端末にそれをかざす。すると『ニンショウシマシタ』の音声と共に自動で扉が開いた。

部屋の中は何かの実験のためか、様々な機械が作動しており、端には多くの薬品が並べられていた。

そんな部屋をみて、和雅は好奇心に満ちた表情を浮かべてこう呟く。

「ここが・・・研究室。」

そんな和雅を石川俊道は微笑ましく見つめた後、入ってきた二人を奥へと誘導した。

「さぁ和雅くんここに座って。」

「え?」

そう俊道が指を刺した椅子を和雅が見ると、顔を青く染めた。

それは木でできた縦に長い腰掛けに、何やらヘルメットの様な電子機器が頭部に近い部分に設置されており、まるで昔の処刑用電気椅子を彷彿とさせる様相の椅子であったからだ。

少年はつい焦り、震え声でこう言った。

「しょ、処刑ですか?」

「はっはっはっ。違うよ和雅くん。これはね?機械を通して多くの情報を一瞬で脳に入れ込む装置なんだ。」

「脳に?」

「そう、今から僕が厳選した最低限必要な科学の基本を、君の脳に直接情報として入れる。そうする事で本で読むよりも早く科学を知ることができるだろう?」

「なるほど、そんな凄い技術があるなんて!!」

和雅はそう言うと、先程とは打って変わって輝く眼差しで椅子を見る。

「まだそんなに完全ではないけど、最先端の技術だよ。さっ、座って。」

「はい。」

本藤和雅はそう俊道に誘導され、緊張の面持ちで椅子に座る。すると、茶髪ミニスカ少女の、白石美咲が物欲しそうな目で言う。

「あの副局務長・・・私もこれ、試してみたいのですけど、いいですか?」

「おや?美咲ちゃんも興味がでたのかい?」

「はい。ちょっとだけ。」

「いいよ。じゃあ和雅くんの後にね。」

そう言うと石川俊道は、和雅の頭上部分にあったヘルメットのような電子機器を、少年の頭に装着し、横についていたいくつかのボタンを押す。

「よし、和雅くん?準備はいいかい?」

「はっ・・・はい!」

和雅の返事を聞くと七三分けの青年、石川俊道は空中で指先をタップするような動作をし、自分の前に光で構成された実体の無い画面を出現させると、手馴れた様子で操作をしてこう言った。

「じゃあ、始めるよ。」

その彼の言葉と共に、和雅少年の頭にある機械から、キィーンと言う少し耳障りな音が鳴り始めると、彼の脳裏に多くの情報が流れ込み始める。

「あぁ・・・ああああ!」

和雅は思わずそんな情けない声を出してしまったが、不思議な感覚を味わった。

突然、宙に浮くような浮遊感と、脳が異常なほど活発化しているせいか、まるで身体が自分のものでは無いかのように重く硬直する感覚、そして入ってくる膨大な情報の中、一瞬だが何か宇宙の真理のようなものが見えた気がした。

『ジョウホウニュウリョクガカンリョウシマシタ。』

そんな音声が聞こえると、耳障りな動作音が鳴り止み、和雅は椅子からガクッと身を落としかけ、今にも地面に体を打ち付けそうな少年を、寸前で俊道が受け止めた。

「おっと、危ない危ない。」

その様子をみて、美咲が驚いたように言う。

「かずくんはどうしたんですか!?」

「あぁ、入れる情報量が膨大だからね。和雅君くらいまだ幼いと脳が疲労してしまうのだよ。大丈夫。今は寝ているだけさ。」

「これ・・・私もこうなるのですか・・・?」

「うーん、やってみないとわからないね。」

「なるほど。私やっぱり、やめときまー・・・・。」

「大丈夫、怖くないよ。」

何食わぬ顔で研究室を出ようとした美咲を、七三分けの青年、石川俊道が肩を抑えて止める。

笑みを浮かべている彼だが、今の美咲にはその笑顔も恐怖にしか感じない。

「いやああああああ!!」

「大丈夫だって。」

そのまま白石美咲は問答無用で座らされたという。

次話

科学の知識を頭脳に入れ込んだ衝撃で研究室に備え付けてあるベットで気を失っていた和雅は、飛び起きるやいなや、仕切られているカーテンを開け、研究...
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
スポンサーリンク