小学生編 第28話 始まった脅威

情報局本部『月』局務長室。

この部屋の扉の前で、髪の長い着物の少女、花野つぼみが懐かしむように少しの間眺めていた。急に動きを止めた少女に、隣で同行していた男が不思議そうな面持ちで声をかける。

「・・・・・・つぼみ様?」

彼の名はユエン・ハーベル。美しく長い金髪に白い肌、整った顔立ちで鋭い目つき、黒のシャツにズボン、袖のある白いマントを羽織っている。

ユエンの問いかけに、我を取り戻したつぼみはこう言葉を返した。

「いいえ、少し昔の事を思い出しただけよ。」

「・・・・そうですか。」

そんな会話を終えると、二人は局務長室へと入っていった。

部屋の中では、奥の机に情報局 局務長大心真が座り、その前で副局務長 石川俊道が立っていた。オールバックに顎髭が特徴的な男、真は少女の姿が見えると、立ち上がりこう言った。

「ようこそいらっしゃいました。つぼみ様。」

「久しぶりね。真。それに俊道も。」

言葉を受けて七三分けの青年、俊道が会釈をしてそれに答える。

「ご無沙汰しております。」

その後、計4人の大人達は部屋中央にあるソファーに、テーブルを挟んで対面して腰掛け、重苦しそうな雰囲気で話を始めた。

「では早速ではありますが、今回の件に関して花の総合病院としての見解をお聞かせ願いますか?」

始めに声を上げたのは大心真だった。

花野つぼみを含めた、ユエン・ハーベルの二人は、宇宙でもトップクラスだと名高い花の総合病院と言われる病院の医院長と副医院長を務めている。

宇宙での組織としての勢力図では、もっとも影響力の強い組織として情報局と花の総合病院は1位と2位の座に君臨しており、更に二つの組織は深く良い関係を築いていた。

「我々の見解といたしましては、ほぼ間違なく戦争が起きると思っております。我が総合病院の方にも“技遊帝国”からの仕業で間違い無いと思われるような被害がありました。それもまるで情報局が仕掛けたのかのような工作があり、それにまんまと引っかかって情報局を敵視するような動きもあるとか。」

そう淡々と言ったのはユエンだ。続けて俊道が声を上げる。

「やはりそうですか、では彼らの目的は我々の星『地球』だと・・・。」

その言葉に、室内はさらに重苦しい空気へと変わる。

「歴史的に見れば、技遊帝国がこちらに攻めてくる事は時間の問題でした。彼らは平和を呼びかける私達の声を完全に無視し、領土を増やし続けました。最近は特に動きが活発になり、聞けばもう天の川銀河の4分の1に当たる星々が占領されてしまっているのは、そちらも知るところだと思いますが。」

つぼみがそう言い、局務長大心真が言葉を続ける。

「・・・うむ。あの国の事だ。交渉がどこまで通用するか。」

「交渉は考えないほうがいいかもしれません。」

「と言うと?」

「技遊帝国は、この銀河でもう覇権を握っていると信じて疑いません。そして彼らはいつも唐突に」

つぼみが言葉を最後まで言い終わる前に、事態は思わぬ方向へと動き出す。

局務長室に緊急で連絡が繋がり、4人が座っているソファーの間、丁度テーブルを割るような形で、実態のない光だけで構成されたモニター画面が出現した。

そこには情報員のである若い男の顔が移し出され、荒々しい息で焦ったように言葉を始めた。

「会議中申し訳ありません!緊急事態です!!技遊帝国から、特殊彗星弾が打たれました!!!!!」

「なに!!」

若い情報員の報告を受け、一番に声を上げたのは局務長大心真だ。

「今すぐ緊急フィールドを展開しろ!!」

「はい!!!」

局務長が慌てて命令を下すのも、特殊彗星弾とは人工的に作り出した彗星で、巨大な氷の星を光の速さで標的に飛ばす技術で、さらに宇宙の長い距離を埋める物質空間転移も使っていると思われる為、発射されてから到達までが凄まじく早い上に、星一つを簡単に消滅させてしまうほどの威力を持つ。

早急に対処しなければ間に合わない。

真の命を受けた若い情報員は、直ちに自分の手元にあるパネルを操作し、タップ、スライドである一定のパターンを入力したのち、こう局務長に求めた。

「認証をお願いします!」

大心真の前には指紋認証を要求する画面が表示され、ためらう事無く彼がそれに答えると、『承認完了』と『防御フィールドを展開いたしました』と書かれた文字が出現した。

その瞬間、情報局本部『月』の表面より、小型のロケットのようなものが発射され、ある程度打ち上がったところで破裂すると、そこを中心に半透明の衝撃波のような円形に広がるものが瞬時に太陽系全てを覆い尽くさんばかりに広がり始め、その途中地球からはかなり離れた地点で、例の彗星弾と激突した。

この半透明のものは情報局の防護壁で、兵器攻撃から身を守る技術の一つ、特殊彗星弾は通り過ぎるその防御領域に触れると、あっけなく消滅した。

一連の様子をモニター越しに見ていた会議中の4人は安堵の息を漏らし、俊道が額に汗を垂らしながら言う。

「これはもう宣戦布告と見ていいだろうね。そして何より、花の総合病院のお二人が来られた時と言うのも狙ったかのようにも見える。敵対心はあなた方にもあると見て間違いないかと。」

焦りを一旦押さえ、ユエン・ハーベルが冷静に言葉を返した。

「そうですね。当面の目的は地球なのでしょうが、ここは情報局と同盟を結び、協力して対抗していきたいところです。」

そして花野つぼみも、深刻そうな表情で頭を抱える大心真の顔をしっかりと見てこう言葉を投げた。

「真。これは避けられない事態ではありました。天の川銀河の平和のため、全力で結束していきましょう。」

「はい。」

返事をした真の声は、重々しく今にも潰れそうな声だった。

そしてその事実は情報局情報員全てにも唐突に言い渡された。あまりにも酷な現実であった。

急遽として情報局に所属している、全ての情報員総勢一万を越える超能力者達が広い宇宙船駐船場に集められ、局務長と副局務長を前に整列し、円盤型の宇宙船に乗った高いところから大信真の声で開戦の真実を告げられた時、多くの人間が絶望の中にまだ覚悟を決められていない様子だった。

死んだような目の少年、本藤和雅もまた絶望の表情を浮かべていた。

大切な人を守りたいからこの組織に所属した、それは間違い無いので自分が戦争に出て地球で暮らす家族を守れる事はある意味で望み通りなのだか、少年の守りたい友人は同じ情報局に所属している。

少年が情報局に入るときに抱いた不安が、現実に危機ときて襲いかかる。

恐怖と不安で押しつぶされそうになった時、ふと和雅は隣で並ぶ坊主頭の少年、坂井準を見て冷静さを取り戻した。

彼は空を見上げ、目を見開いて震えていた。怖いのは自分だけでは無い事を理解した。

準の震える手を見つめ、少しでも気を紛らわせられればと少年の手を握ると、坂井準は驚いた顔でこちらを見て、笑って答えた。

その反応に安心した和雅は、同じく笑みで返した。

そして決意する。絶対に友を守りきると、準だけじゃない。大心龍介も、白石美咲も、副局務長や局務長でさえ、本藤和雅の中では、もう掛け替えのない存在となっていた。

「地球の為!故郷の為!強い覚悟で、星を守らなければならない!!大丈夫だ。我々は常に日々努力し、宇宙に貢献してきた!私利私欲の為に侵略を試みる星などには絶対に敗北しない!!!」

全情報員の前で、局務長大心真が大声でそう叫んだ。

その叫びは超能力者達の心に響き、大きく歓声が上がった。しかし、現実的には戦力差は歴然だった。

他の星の協力もあるとは言え、総勢一兆にも近い技遊帝国軍に対して、情報局はたった一万の勢力しかない。

無謀とも思える戦いが、いま始まった。

次話

技遊帝国と情報局、花の総合病院を始め、その他の局と関係の深い周辺の星々を巻き込んだ戦争が宇宙で始まってから、一週間がたった。 戦いは本...
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